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ヴィジュアル系の系譜【日本のゴシック×ロック】

  • 7月18日
  • 読了時間: 5分

赤紫の照明に照らされた無人のライブステージ。ドラムセット、キーボード、マイクスタンド、サックスのシルエットが並ぶ。

音楽ジャンルでもファッションでもなく

派手なメイク、黒を基調にした衣装、中性的な佇まい。「ヴィジュアル系」と呼ばれる日本独自の文化は、音楽ジャンルとして語られることもあれば、ファッションのスタイルとして語られることもある。その曖昧さこそが、このムーブメントの本質を表しているのかもしれない。


ある評論家は、ヴィジュアル系を「特定のサウンドを示す言葉ではなく、化粧やファッション等の視覚表現により世界観や様式美を構築するもの」と定義した。音楽ではなく「様式美」。この一点にこそ、ヴィジュアル系がゴシックの耽美とロックの反骨、両方の血を引く理由が隠されている。



名付けられる前の時代

ヴィジュアル系という言葉が生まれる以前、1980年代のバンドシーンには「お化粧系」という呼び名があった。DEAD END、BUCK-TICK、そして後にX JAPANとなるXなど、化粧をして舞台に立つバンドたちが、少しずつ独自のシーンを形作りつつあった。


この時代のスタイルは「黒服系」とも呼ばれ、黒を基調としたゴシックで退廃的な服装が特徴だった。世界観は、まさにダーク・ゴシック・ロック。当時から、ヴィジュアル系はゴシックという美意識と分かちがたく結びついていたのだ。



「ヴィジュアル系」という言葉の誕生

「ヴィジュアル系」という呼称は、Xの2ndアルバム『BLUE BLOOD』のキャッチコピー「PSYCHEDELIC VIOLENCE CRIME OF VISUAL SHOCK」に由来するとされている。


雑誌『SHOXX』の編集長だった星子誠一は、「お化粧系」という呼び名では表現が安っぽく、バンドやファンに対して失礼だと感じ、このコピーから着想を得て「ヴィジュアルショック系」という呼称を使い始めたという。これがやがて「ヴィジュアル系」へと簡略化され、ジャンルの名として定着していった。


X(後のX JAPAN)は、リーダーYOSHIKIによって結成された。彼が好んで聴いていたキッス、セックス・ピストルズ、デヴィッド・ボウイ、クイーンといったアーティストの影響を色濃く受け、ロックと芸術的なメイク、そして衣装がひとつに結びついていく。



ロックとゴシックの合流点

音楽的な側面から見ても、ヴィジュアル系はゴシックとロックの合流点にある。音楽ライターの対談では、ヴィジュアル系の音楽的な要素として、ポジティブパンクとヘヴィメタルの二つが挙げられている。


実際、初期のヴィジュアル系バンドが語る音楽的ルーツは多彩だ。黒夢は、ポストパンク系バンドASYLUMやDEAD ENDから影響を受けた。LUNA SEAは、イギリスのゴシックロックバンド「ザ・キュアー」やハードコアパンクのGASTUNKからの影響を語っている。そして、以前「L'Arc〜en〜Cielの世界観と美学」で触れたラルクもまた、ザ・キュアーをはじめとするゴシック・ロックやポストパンクをルーツに持つバンドの一つだった。


パンクの反骨精神と、ゴシックロックの耽美な暗さ。この二つの血脈が、ヴィジュアル系という独自の様式の中で合流していたのだ。



サブジャンルという細分化

1990年代、ヴィジュアル系が全盛期を迎えると、そのスタイルは細分化されていく。ゴージャスな衣装と濃いメイクを特徴とする「コテ系」、ストリート的でナチュラルなメイクの「ソフヴィ系」、黒いエナメルや革に鋲を大量に身につける「黒系」、和服や独特の白塗りメイクを特徴とする「白塗り系」など、それぞれが異なる美学を追求していった。


黒服系から連なる「耽美系」というジャンルも存在する。メロディアスなメタルを基調に、退廃的で耽美な世界観を追求するこの系統は、以前「宝野アリカ/ALI PROJECTの世界観」で扱った、文語で紡がれる耽美の美学とも通じ合う部分がある。


そして「黒系」に見られる、革に鋲を大量に打ち込むスタイルは、パンクが生んだ意匠がヴィジュアル系の中に確かに息づいていることを示している。(スタッズの文化史については「スタッズの文化史」で詳しく扱っている。)



世界に誇る、日本独自の文化

ヴィジュアル系という現象を、あるミュージシャンはこう評したという。ヴィジュアル系はヘヴィメタルを基軸にしながらも、非常に広い音楽性の幅を持ち、外見と共にサウンドもブランドとして確立している、と。


外見を表現の一部として取り入れるという姿勢は、「形」を重視する日本文化、とりわけ男性が化粧を施す歌舞伎文化との関連性も指摘されている。海外では、外見を重視するバンドがしばしば軽視される傾向にある一方、日本のヴィジュアル系はそれを堂々とした表現手法として確立させた。まさに、日本独自の文脈から生まれた、世界に類を見ない音楽文化だと言えるだろう。



二つの血脈が交わる場所

ゴシックの耽美と、ロックの反骨。本来は異なる場所から生まれた二つの美意識が、ヴィジュアル系という様式の中で、確かに交わっていた。


化粧を施し、革を纏い、様式美を構築する。そこには、ジャンルという枠を超えた、ひとつの一貫した衝動がある。


◆【関連する記録】


(ゴシックロックをルーツに持つ、ヴィジュアル系と地続きのバンド)


(ヴィジュアル系の「黒系」にも息づく、パンクの意匠)


(ヴィジュアル系の源流にある、黒服系という美学の背景)



StrangeArtifactでは、こうした歴史や意匠をもとに、革製品をひとつひとつ手作りしています。 商品はこちらからご覧いただけます。




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ストレンジアーティファクト主宰ツダイサオの近影写真、シルクハットをかぶりメガネをかけている。

著者:ツダイサオ(Tsuda Isao) 革で架空の遺物を再現するレザーアクセサリーブランド「StrangeArtifact」主宰。衣装・空間・3Dと領域を横断して世界観をかたちにするデザイナーであり、一般社団法人 日本スチームパンク協会の理事も務める。h.NAOTOやSheglitとのコラボレーション、各種メディアへの衣装提供など実績多数。





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