L'Arc〜en〜Cielの世界観と美学【耽美とゴシックの系譜をたどる】
- 6月28日
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更新日:2 日前
虹という名のバンド
L'Arc〜en〜Ciel(ラルク アン シエル)。フランス語で「虹」を意味するこの名を持つバンドは、1990年代以降の日本のロックシーンを代表する存在であり続けている。
ハイクオリティなサウンド、広い音楽的振り幅、そしてボーカルhydeが描く耽美的な歌詞世界、その魅力は多面的だが、StrangeArtifactがとりわけ惹かれるのは、彼らがある時期に体現した、退廃と幻想の美学だ。
この記事では、L'Arc〜en〜Cielというバンドの歩みを簡潔にたどりつつ、その世界観、特にゴシック・耽美的な側面に焦点を当てて見ていく。
簡易年表
年 | 主な出来事 |
1991 | tetsuyaを中心に大阪で結成 |
1993 | 1stアルバム『DUNE』発表、インディーズチャート首位 |
1994 | ビデオシングル「眠りによせて」でメジャーデビュー |
1998 | yukihiro正式加入。「HONEY」「花葬」「浸食」3作同時リリース、オリコン1位2位独占 |
1999 | 『ark』『ray』2枚同時発表、アルバム2週連続1位2位独占 |
2000s | 「READY STEADY GO」「叙情詩」などヒット、活動休止と再開を経る |
2012 | ニューヨーク・マディソンスクエアガーデンで日本人アーティスト初の単独公演 |
2017 | 結成25周年「25th L'Anniversary LIVE」を東京ドームで開催 |
現在 | 各メンバーのソロ活動と並行し、長寿バンドとして活動を継続 |
※ 現在も活動を続ける長寿バンドであり、本記事はその中でも特に耽美色の濃かった時期に焦点を当てている。
ルーツにあるもの——ニューウェイヴとゴシックロック
L'Arc〜en〜Cielの音楽的な出発点を知ると、彼らの耽美性がどこから来たのかが見えてくる。
メンバーの音楽的ルーツには、1980年代のニューウェイヴやポストパンクといった洋楽ロックがある。1993年の1stアルバム『DUNE』には、ニュー・ウェイヴ、ポストパンク、プログレッシブ・ロック、そしてゴシック・ロックの要素が色濃く反映されているとされる。
ここで「ゴシック・ロック」という言葉が出てくることに注目したい。
ゴシックロックは、ポストパンクから派生した、暗く耽美的な音楽ジャンルだ。(ゴシックロックの系譜については、別記事で詳しく扱う予定だ。)L'Arc〜en〜Cielは、この暗く美しい音楽の血を、出発点から受け継いでいた。彼らの耽美性は、後付けの演出ではなく、ルーツに根ざしたものだったのだ。
1998年——耽美が頂点に達した年
L'Arc〜en〜Cielの世界観がもっとも鮮烈に結晶したのが、1998年だ。
この年、バンドは驚異的なリリースを連発する。7月には「HONEY」「花葬」「浸食 〜lose control〜」のシングル3作を同時発売し、オリコンチャートの1位と2位を独占。10月にも2作を2週連続でリリースし、再び1位2位を独占した。商業的な絶頂であると同時に、表現の面でも最も濃密な時期だった。
中でも「花葬(かそう)」は、彼らの耽美的世界観を象徴する一曲として知られる。タイトルが示す通り、花と葬送、美と死を重ね合わせたその世界は、退廃的で幻想的だ。曲名そのものが、滅びの中に美を見出すという、ゴシック美学の核心を突いている。直接的な言葉で語るのではなく、比喩を重ねた象徴的な表現で死と美を描き出すhydeの作詞は、聴く者を独特の幻想世界へと誘った。
翌1999年の『ark』『ray』2枚同時発表も含め、この時期のL'Arc〜en〜Cielは、ダークで耽美的な世界観を、最も純度高く提示していた。
ゴシック・耽美の系譜の中で
L'Arc〜en〜Cielの耽美性は、日本のロック史の中でどう位置づけられるだろうか。
1990年代、日本ではヴィジュアル系と呼ばれるムーブメントが隆盛を迎えていた。耽美的なメイクと衣装、退廃的な世界観を持つバンドたちが、独自の美学を競い合った時代だ。
L'Arc〜en〜Cielもまた、その美意識を共有する存在として登場し、しかし単なる様式に留まらず、楽曲のクオリティと普遍性によって、その枠を超えていった。
彼らが体現した「美と死」「退廃と幻想」というモチーフは、はるか遠くヨーロッパのゴシック文化、メメント・モリ(死を想え)の美学にまで遡る系譜の上にある。(メメント・モリについては「メメント・モリ【死を想え、の美学】」で詳しく扱っている)。花を葬るという発想、滅びゆくものへの眼差し。それは時代も国も越えて、人を惹きつけ続けてきた普遍的な美意識だ。L'Arc〜en〜Cielは、その美意識を、90年代の日本のロックという形で鮮やかに表現した。
StrangeArtifactとの接点
L'Arc〜en〜Cielの世界観は、StrangeArtifactが大切にしているものと深く重なる。退廃と幻想、美と死、そして物語性、架空の遺物商という世界観の根にあるのは、まさにこうした耽美の感覚だ。
ご縁あって、StrangeArtifactは、ゴシック・ロリータ系ファッションブランドh.NAOTOを通じて、L'Arc〜en〜Cielの結成25周年を記念するライブへの衣装提供に携わらせていただいた。長年その美学に惹かれてきた者として、彼らの節目の舞台に関わることができたのは、特別な経験だった。
革で耽美と幻想を形にするという当ブランドの営みは、L'Arc〜en〜Cielが音楽で描いてきた世界と、どこかで通じ合っているのかもしれない。
◆【関連する記録】
・メメント・モリ【死を想え、の美学】(花葬が体現する「美と死」の美学の源流)
・宝野アリカ/ALI PROJECTの世界観【耽美と退廃の美学】(同じ耽美の系譜にある、もうひとつの日本の音楽ユニット)
・ダークアカデミアとは何か【美学の起源・文学・ゴシックとの違い】(耽美の系譜にある、もうひとつの美学。知性と退廃という異なる焦点)
退廃と幻想の美学を、革の装身具に。架空の世界から届いた遺物を。
StrangeArtifactでは、こうした歴史から生まれた遺物を、日々ひとつひとつかたちにしています。 新しい遺物や、世界観の断片は、Instagramで。

著者:ツダイサオ(Tsuda Isao) 革で架空の遺物を再現するレザーアクセサリーブランド「StrangeArtifact」主宰。衣装・空間・3Dと領域を横断して世界観をかたちにするデザイナーであり、一般社団法人 日本スチームパンク協会の理事も務める。h.NAOTOやSheglitとのコラボレーション、各種メディアへの衣装提供など実績多数。

