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エルデンリングの世界観の元ネタ【神話的背景をたどる】

  • 6月28日
  • 読了時間: 5分
白い紙地に金色の木が一本、斜面に立ち、周囲に金の飛沫と刷毛跡が広がる抽象的で静かな風景

なぜ、あの世界は懐かしく感じるのか

『ELDEN RING(エルデンリング)』の世界に足を踏み入れたとき、多くのプレイヤーが、どこか見覚えのある感覚を抱く。黄金に輝く巨大な樹、ルーンと呼ばれる力、滅びと再生の物語——それらは初めて見るはずなのに、なぜか懐かしい。


その理由は、この作品が現実世界のさまざまな神話や歴史をモチーフとして織り込んでいるからだ。フロム・ソフトウェアの作品は、特定の神話をそのまま再現するのではなく、複数の神話的要素を独自に再構成することで、唯一無二の世界観を作り上げている。


ここでは、エルデンリングの世界観の背後にある、実在の神話的モチーフを辿っていく。なお、本記事はゲームの物語そのものの考察ではなく、その源流にあると考えられる現実の神話・歴史を紹介するものだ。



黄金樹と世界樹——北欧神話の影

エルデンリングの世界を象徴するのが、狭間の地にそびえる巨大な「黄金樹」だ。この黄金樹を見て、北欧神話の世界樹ユグドラシルを連想したプレイヤーは多い。


北欧神話において、世界樹ユグドラシルは九つの世界を内包し、それらを結びつける存在だった。世界そのものとも言える巨大な樹——その構造は、狭間の地の中心に立ち、世界の秩序を体現する黄金樹と強く重なる。実際、エルデンリングのパッケージに描かれた、複数の円environ環を内包する黄金樹の意匠は、九つの世界を内包するユグドラシルとの類似がしばしば指摘される。


世界を支える一本の大樹というモチーフは、北欧神話のもっとも独創的な発想のひとつだった。(ユグドラシルについては「北欧神話入門」で詳しく解説している。)エルデンリングは、この世界樹の構造を作品の中心に据えることで、神話的なスケールの世界観を獲得していると言えるだろう。



ルーンという力——北欧の魔術文字

エルデンリングにおいて、力やエネルギーの単位として登場するのが「ルーン」だ。これもまた、北欧神話に由来するモチーフである。


現実のルーン文字は、古代ゲルマン人が用いた文字体系であり、単なる表音文字であると同時に、一文字ごとに固有の意味を持ち、護符や武器に刻まれて呪術的な力を発揮すると信じられていた。「ルーン」という語そのものが「秘密」を意味する——その神秘性が、ゲームにおける「世界を律する力」というルーンのイメージと響き合っている。


北欧神話では、最高神オーディンが世界樹に身を吊るす苦行の果てにルーンの秘密を得たとされる。世界樹とルーンが神話的に結びついているという事実は、黄金樹(世界樹)とルーン(力)が中心に据えられたエルデンリングの世界観と、構造的に通じている。(ルーン文字の歴史は「ルーン文字の歴史」で詳しく扱っている。)



多層的な神話の融合

エルデンリングの興味深さは、北欧神話だけに留まらない点にある。研究者やファンの考察では、さまざまな神話的要素の混在が指摘されている。


死を司る領域や「隠された土地」という概念には、北欧神話の死者の国ヘルヘイムや、ケルト・アイルランド神話の異界(あの世)の影響が見て取れる。ケルト神話の他界観——生者の世界と隣り合わせに存在する、もうひとつの世界——は、フロム作品が得意とする「境界」「狭間」の感覚と親和性が高い。


また、世界の色彩設計や「大いなる業」を思わせる構造には、中世ヨーロッパの錬金術の思想との共通点も指摘される。黒から白、白から金へと変容していく錬金術の段階は、エルデンリングの黄金というモチーフと無関係ではないかもしれない。(錬金術の思想については、今後の記事で扱う予定だ。)


さらに、古代バビロニアの世界観を思わせる意匠など、複数の古代文明の要素も織り込まれているとされる。エルデンリングの世界は、ひとつの神話の再現ではなく、人類が紡いできた数多くの神話を、黄金樹という新たな神話で覆い直したもの——そう捉えると、この作品の奥行きがより深く見えてくる。



なぜフロム作品は神話的なのか

フロム・ソフトウェアの作品が多くの人を惹きつける理由のひとつは、この「語りすぎない神話性」にあるだろう。


実在の神話は、もともと断片的にしか伝わっていない。失われた部分、矛盾する伝承、解釈の余地——その「余白」こそが、神話を神話たらしめている。フロム作品は、この神話の構造を巧みに再現する。世界の全貌を説明せず、断片だけを提示し、プレイヤーに想像を委ねる。だからこそ、その世界は本物の神話のように感じられるのだ。


黄金樹を見て世界樹を思い、ルーンに古代文字の記憶を重ね、狭間の地に異界の気配を感じる。プレイヤーが無意識に呼び起こすこれらの連想は、人類が長い時間をかけて蓄積してきた神話的な感性そのものだ。エルデンリングは、その感性を呼び覚ます装置として機能している。



物語の断片を、手元に

神話とは、物語を宿した断片の集積だ。世界樹の一葉、ルーンの一文字、護符のひとかけら——その断片に触れることで、人は背後にある広大な物語を感じ取る。(護符と物語の関係については「護符とお守りの世界史」で触れている。)


物に物語が宿るという感覚は、ゲームの中だけのものではない。


◆【関連する記録】


北欧神話入門【主要な神々と世界樹ユグドラシル】(黄金樹のモデルとされる、世界樹ユグドラシルの全体像)


ルーン文字の歴史【北欧の魔術文字とその意味】(「力」としてのルーンの、現実における起源)



StrangeArtifactが作るのは、架空の世界から届いた遺物——それぞれが、語られない物語の断片を宿した装身具だ。



StrangeArtifactでは、こうした歴史から生まれた遺物を、日々ひとつひとつかたちにしています。 新しい遺物や、世界観の断片は、Instagramで。



ストレンジアーティファクト主宰ツダイサオの近影写真、シルクハットをかぶりメガネをかけている。

著者:ツダイサオ(Tsuda Isao) 革で架空の遺物を再現するレザーアクセサリーブランド「StrangeArtifact」主宰。衣装・空間・3Dと領域を横断して世界観をかたちにするデザイナーであり、一般社団法人 日本スチームパンク協会の理事も務める。h.NAOTOやSheglitとのコラボレーション、各種メディアへの衣装提供など実績多数。






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