ダークソウルのモチーフ考察【北欧・ケルト】
- 8月15日
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『DARK SOULS』の世界に登場する名前を並べていくと、明らかに実在の神話や伝説から借りてきた音が混じっている。グウィン、グウィネヴィア、アルトリウス、シフ、バルデル。北欧神話やアーサー王伝説に触れたことがあれば、どこかで見た名だと気づくはずだ。
ただし、この手の「元ネタ探し」には落とし穴がある。断片的な情報しか与えられない作品であるがゆえに、推測が推測として扱われないまま定説のように流通しやすい。ここでは、制作者自身が語っていることと、名前からたどれる推測を分けて整理していく。
制作者が語っていること【断片から想像するという原体験】
ディレクターの宮崎英高は1974年、静岡市の生まれである。慶應義塾大学文学部を卒業後、日本オラクルに勤め、2004年にフロム・ソフトウェアへプランナーとして入社した。ゲーム業界に入ったのは30歳を目前にしてのことだ。
彼が繰り返し語っている原体験がある。子どもの頃、本を買ってもらえる家庭ではなかったため、図書館で英語のファンタジーやSF小説を借りていた。しかし当時の彼に英語は読めない。そこで挿絵と、断片的に理解できる単語から物語を想像していたという。
影響を受けた作品として名前が挙がっているのは、三浦建太郎の『ベルセルク』、ジョージ・R・R・マーティン、ゲームブックの『ソーサリー』および『ファイティング・ファンタジー』シリーズ、ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』、そして上田文人の『ICO』である。2001年に友人に勧められて『ICO』を遊んだことが、ゲーム制作へ向かう転機になったと本人が述べている。
ここで確認しておきたいのは、公に語られている影響源のリストに「北欧神話」や「ケルト神話」といった特定の神話体系が名指しで入っていないという点だ。語られているのは、断片から物語を組み立てさせるという方法論の出自のほうである。この違いは、あとで効いてくる。
名前がたどれるもの【北欧神話】
それでも、固有名詞には明確な出所がある。
大狼シフの「シフ」は、北欧神話のシヴ(Sif)と綴りが同じだ。シヴはトールの妻であり、黄金の髪を持つ女神として知られる。ゲームに登場するのは巨大な狼であり、神話上の役割とはまったく重ならない。
バルデル騎士の「バルデル」は、北欧神話のバルドル(Baldr)である。オーディンの子で、光の神とされ、ヤドリギによって命を落とす。その死がラグナロクの引き金になる、神話の中でも重要な存在だ。
魔術学院のあるヴィンハイム(Vinheim)の「ハイム」は、北欧神話の世界名に共通する接尾辞である。ヨトゥンヘイム(巨人の国)、ムスペルヘイム(炎の国)、ニヴルヘイム(霧の国)というように、世界樹ユグドラシルが支える九つの世界の名に繰り返し現れる。
名前がたどれるもの【ケルト・アーサー王伝説】
もう一方の系譜はブリテン島から来ている。
太陽の王女グウィネヴィア(Gwynevere)は、アーサー王の妃グィネヴィア(Guinevere)とほぼ同じ綴りだ。この名はウェールズ語系の要素を含み、中期コーンウォール語では Gwynnever とも表記される。ウェールズ語の gwyn は「白い」「輝く」を意味する語である。
深淵の騎士アルトリウス(Artorias)は、アーサー(Arthur)のラテン語形とされる Artorius に極めて近い。アーサー王伝説の実在モデル候補として名が挙がるローマ軍人、ルキウス・アルトリウス・カストゥスと同じ語形である。
そして王の名グウィン(Gwyn)は、ウェールズ伝承のグウィン・アプ・ニズ(Gwyn ap Nudd)を連想させる。異界アンヌンの王とされ、死者の魂を狩り集める「ワイルドハント」の主として語られる存在だ。
ただし、ここで注意が必要になる。ゲーム内のグウィンは太陽と雷を司る王であり、その属性はむしろギリシャ神話のゼウスや北欧神話のオーディンに近い。名前はケルト系、属性は別系統。名前と役割が対応していないのだ。
構造としての終末【火が消えるということ】
固有名詞よりも、世界の構造のほうが神話に近い場所がある。
この世界には「最初の火」があり、それが消えかけている。火が消えれば神々の時代が終わり、闇の時代が来る。それを避けるため、火に薪をくべ続ける行為が「火継ぎ」と呼ばれる。
終末があらかじめ約束されており、神々でさえ死を免れないという構造は、北欧神話のラグナロクと共通している。世界の終わりを前提に世界が組み立てられている神話は、実はそう多くない。ギリシャ神話やケルト神話では、不死であることこそが神の条件とされる。
ただし決定的な違いもある。ラグナロクは一度きりの終末であり、そのあとに新しい世界が生まれる。直線と再生の物語だ。対して『DARK SOULS』の火継ぎは、終わりそのものを先送りにする行為である。再生ではなく延命であり、それが繰り返される。終末を遅らせ続けることが世界を摩耗させていくという発想は、既存の神話にそのまま対応するものが見当たらない。
一方、ケルト神話の異界(アンヌン)の感覚は、この世界の地形に近い。死者の国が遠い彼方ではなく、こちら側と地続きにあり、行き来ができる。ロードランという舞台が、生者と亡者、神と人の領域を明確に隔てないまま一続きの空間として設計されていることは、この感覚に通じている。
なぜ断定できないのか【フレーバーテキストという方法】
ここまで見てきたとおり、この作品は複数の神話から名前と要素を借りている。しかし、どれか一つの神話を下敷きにした再話にはなっていない。
シフは北欧の女神の名を持つ狼であり、グウィンはケルト系の名を持つ太陽神である。名前は借りるが、役割は置き換えられている。だから「この神話のこの神が元ネタだ」という一対一の対応表を作ろうとすると、必ずどこかで破綻する。
そしてこの作品の情報は、そのほとんどが武器や防具、アイテムの説明文に断片として置かれている。世界の成り立ちを語る語り手はいない。プレイヤーは拾った装備の説明を読み、地形を見て、断片同士をつなぎ合わせて全体像を推測することになる。
この構造は、少年時代に読めない洋書の挿絵から物語を想像していたという原体験と、そのまま同じ形をしている。断片を与え、確定させないことが、この作品の設計そのものなのだ。
つまり「元ネタ」は答えではない。名前の出所をたどることは、作品の外側にある広い伝承の世界への入口として機能する。そこから北欧神話やアーサー王伝説そのものへ手を伸ばしたとき、ゲームの中で見た断片が別の意味を帯び始める。この作品が長く語られ続けている理由は、おそらくそこにある。
◆【関連する記録】
(同じ制作者による作品の神話的背景をたどった記事)
(シフ、バルドル、ラグナロクの元になった神話の全体像)
(グウィンの名の由来と、異界アンヌンの感覚について)
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著者:ツダイサオ(Tsuda Isao) 革で架空の遺物を再現するレザーアクセサリーブランド「StrangeArtifact」主宰。衣装・空間・3Dと領域を横断して世界観をかたちにするデザイナーであり、一般社団法人 日本スチームパンク協会の理事も務める。h.NAOTOやSheglitとのコラボレーション、各種メディアへの衣装提供など実績多数。


