top of page

なぜ革は服飾に使われ続けるのか【素材としての革】

  • 3 日前
  • 読了時間: 6分
市場の衣料品屋台に、赤・黄・茶・青・緑など色とりどりのレザージャケットやコートがマネキンにずらりと並ぶ。

人が身につけるものの素材は、この数千年で大きく入れ替わってきた。麻や毛から綿へ、そして化学繊維へ。技術が進むたびに、古い素材は新しい素材に置き換えられていく。


その中で、革だけが五千年以上ほとんど姿を変えずに残っている。同じ動物の皮を、同じように鞣し、同じように縫って身につけている。これはかなり例外的なことだ。


なぜ置き換わらなかったのか。素材としての革が何であるかを見ていくと、その理由がいくつか見えてくる。



五千年前の靴【アレニ1洞窟とアイスマン】

現存する世界最古の革靴は、2008年にアルメニアのアレニ1洞窟で発見されたものだ。放射性炭素年代測定により、紀元前3500年頃のものと判明している。


一枚の牛革から作られ、前から後ろへ革紐を通して結ぶ構造で、長さは約24.5センチ。低温で乾燥した洞窟環境と、堆積した羊糞の層に覆われていたことで、ほぼ完全な形で残った。

そして重要なのは、この靴が現代のアイルランドのアラン諸島やバルカン半島に残る伝統的な靴と、非常によく似ているという点である。五千五百年の間に、基本構造がほとんど変わっていない。


アルプスで発見された紀元前3300年頃のミイラ、通称アイスマン(エッツィ)の装備はさらに雄弁だ。DNA分析の結果、彼の衣類には牛、羊、山羊、熊、ノロジカという複数の動物の革が使い分けられていた。靴紐は牛、コートと腰布は羊、レギンスは山羊、帽子は熊。用途によって革を選び分けていたことになる。


さらに、彼のジャケットには複数回にわたって継ぎ当てが施されていた。古い革が傷むたびに、新しい革の切れ端を足していたのだ。五千三百年前の時点で、革は「壊れたら修理して使い続けるもの」だった。


なお、革でない靴はもっと古い。アメリカのオレゴン州で見つかったヨモギの樹皮製のサンダルは、紀元前7000年頃のものとされる。人類が最初に足を覆ったのは植物繊維だった。革の靴は、その後に現れて、そして残ったほうである。



皮から革へ【鞣しという発明】

ここで押さえておきたいのは、動物の皮がそのままでは使えないという事実だ。


剥いだままの皮は、放置すれば腐敗する。乾かせば腐敗は止まるが、今度は板のように硬くなって曲がらなくなる。どちらにしても、身につけるものにはならない。


この問題を解決するのが鞣し(なめし)である。皮のタンパク質繊維に薬剤を結合させ、腐らず、乾いても硬くならない状態に変える。皮(skin, hide)と革(leather)が別の言葉で呼ばれるのは、この工程を経ているかどうかの違いだ。


つまり革は、自然の素材でありながら、人の手が加わって初めて成立する素材である。植物繊維を織る技術と同じくらい古い、加工技術の産物なのだ。


そして鞣しの方法によって、できあがる革の性質は大きく変わる。硬く締まった革も、しなやかで柔らかい革も、同じ動物の皮から作られる。革製品ごとの手触りの違いは、多くの場合この工程の違いから来ている。



服飾に向いている理由【構造から見る】

革が身につけるものに向いているのは、その繊維構造による部分が大きい。


革の内部では、コラーゲン繊維が三次元的に絡み合っている。布のように縦糸と横糸が直交しているのではなく、あらゆる方向に繊維が走っている。このため、方向による強度の差が小さく、どの向きに裁っても大きく性質が変わらない。ほつれが一方向に広がっていくことも起きにくい。


もうひとつは、面として一体であることだ。布は糸を組み合わせて面を作るが、革は最初から面である。だから縁を切りっぱなしにしても、そこから崩れていかない。裁断や縫製の自由度が高いのは、この性質による。


そして、通気性がある。革は微細な繊維の隙間を持っており、水蒸気を通す。密閉されたビニールと違い、身につけていても内部に湿気がこもりにくい。動物の皮膚だったものが、その機能を残しているとも言える。


厚みを部分的に変えられる点も、衣服や小物では効いてくる。漉いて薄くすれば柔らかく、そのまま使えば硬い。同じ一枚の中で使い分けができる素材は、それほど多くない。



直せるということ

アイスマンのジャケットの継ぎ当てに戻る。


革が数千年使われ続けてきた理由のひとつは、修理を前提にできる素材だという点にある。破れた部分に別の革を重ねて縫えば、機能は回復する。糸がほつれれば縫い直せる。表面が傷んでも、削って磨けばある程度は戻る。


これは、素材が高価であった時代には決定的な性質だった。一頭の動物から取れる革は限られており、簡単に買い替えられるものではない。壊れたら直すという前提が、素材の側にも備わっている必要があった。


現代の衣類の多くは、修理よりも買い替えのほうが安い。しかし革製品では、靴の底を張り替え、鞄の持ち手を交換し、財布のコバを塗り直すという文化が今も残っている。素材の性質が、扱い方まで規定している例だと言える。



合成皮革が置き換えられなかったもの

二十世紀に入り、革に似た素材が次々に作られた。合成皮革は安価で、品質が均一で、動物由来でなく、水にも強い。多くの用途で実際に革を置き換えている。


それでも革が残っているのは、いくつかの性質が再現しにくいからだ。


ひとつは寿命の形である。合成皮革は表面の樹脂層が経年で加水分解し、ある時点からひび割れや剥離が始まる。使用頻度に関わらず、時間とともに劣化する。革は使えば傷むが、手入れをすれば数十年単位で使える。壊れ方が違うのだ。


もうひとつは変化の方向である。合成皮革の変化はほぼすべて劣化として現れる。革の場合、色が濃くなり、艶が出て、体に馴染んでいく変化が、多くの人に好ましいものとして受け取られる。同じ「古くなる」でも、意味が逆になる。


そして修理のしやすさも異なる。革は縫い直せて、部分交換ができて、削って磨ける。表面に樹脂層を持つ素材では、同じことがしにくい。



使った時間が、見た目になる

こうして見ていくと、革が残ってきた理由は性能だけではないことが分かる。


強度や通気性といった性質は、いずれ技術で上回れるかもしれない。しかし、使い込むほどに色が深まり、その人の使い方が形として残っていくという性質は、性能表には現れない。

同じ革製品を二人が同じ期間使えば、二つは違う姿になる。手の当たる場所が擦れ、よく開く場所に折り目がつき、日の当たり方で色の濃さが変わる。工業製品でありながら、使うほど固有のものになっていく。


五千三百年前のアイスマンのジャケットに残っていた継ぎ当ての跡も、その人がどう使ったかの記録である。革が記録する素材だという性質は、最初期から変わっていない。


新しい素材は、これからも作られ続けるだろう。ただ、使った時間がそのまま見た目になるという性質を持った素材は、そう多くはない。革が置き換えられずに残っている理由は、おそらくそこにある。



◆【関連する記録】


(用途ごとに、革のどの性質が使われているのかについて)


(皮を革に変える工程の、具体的な違いについて)


(衣服としての革が意味を持つようになった経緯)



StrangeArtifactでは、こうした歴史や意匠をもとに、革製品をひとつひとつ手作りしています。 商品はこちらからご覧いただけます。




新作や制作の様子は、Instagramでも発信しています。よろしければご覧ください。



ストレンジアーティファクト主宰ツダイサオの近影写真、シルクハットをかぶりメガネをかけている。

著者:ツダイサオ(Tsuda Isao) 革で架空の遺物を再現するレザーアクセサリーブランド「StrangeArtifact」主宰。衣装・空間・3Dと領域を横断して世界観をかたちにするデザイナーであり、一般社団法人 日本スチームパンク協会の理事も務める。h.NAOTOやSheglitとのコラボレーション、各種メディアへの衣装提供など実績多数。





StrangeArtifact|架空の世界から届いた遺物を革に刻んで再現するレザーアクセサリーブランド

© 2026 StrangeArtifact

  • Instagram
bottom of page