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革の鞣しとは【タンニン・クロム・コンビ鞣しの違い】

  • 6月28日
  • 読了時間: 5分
皮をなめすためにロープに干している様子

「皮」が「革」になるということ


動物から得たばかりの皮は、そのままでは製品にできない。放置すれば腐り、乾けば板のように硬くなる。この生の皮を、腐らず、柔らかく、長く使える「革」へと変える加工が「鞣し(なめし)」だ。


鞣しは革づくりにおいて最も重要な工程であり、どの方法で鞣すかによって、革の表情・手触り・経年変化・耐久性のすべてが決まる。同じ牛の皮でも、鞣し方が違えば、まったくの別物になる。


ここでは革の鞣しを大きく三つに分け、それぞれが何を生むのかを見ていく。



なぜ鞣す必要があるのか


生の皮はタンパク質(主にコラーゲン繊維)でできている。これは放っておけば腐敗し、乾燥すれば硬化してしまう、不安定な状態だ。


鞣しとは、このコラーゲン繊維に鞣剤(なめしざい)を結合させ、繊維同士を安定させる化学処理を指す。鞣剤が繊維の間に入り込んで架橋を作ることで、皮は腐敗への抵抗力を得て、熱や水にも強く、柔軟性を保った「革」へと変化する。


この鞣剤として何を使うか——それが鞣しの種類を分ける。古代から使われてきた植物由来のタンニンか、近代に生まれた金属化合物のクロムか。あるいは、その両方か。



タンニン鞣し——時間が育てる革


タンニン鞣しは、植物の樹皮や果実から抽出した渋(タンニン)を鞣剤に使う、最も古い鞣しの方法だ。その起源は古代エジプトにまで遡るとされる。


最大の特徴は、時間がかかること。原皮を濃度の異なるタンニン液に順に漬け込んでいくため、完成までに数週間から、長いものでは数ヶ月を要する。手間もコストもかかるため、現在流通している革のうちタンニン鞣しが占める割合は2割程度とされ、決して主流ではない。


しかし、この製法でしか得られないものがある。経年変化(エイジング)だ。タンニン鞣しの革は、使い込むほどに色が深まり、艶が増し、使う人の生活の跡を刻んでいく。硬めでしっかりとした質感を持ち、時間をかけて自分だけの一枚へと育っていく。革本来の自然な風合いを最も色濃く残す鞣しと言える。


StrangeArtifactが使用しているのは、このタンニン鞣しの本革だ。時間が宿り、使う人とともに表情を変えていく——その性質が、遺物という世界観と地続きにあるためだ。



クロム鞣し——近代が生んだ実用の革


クロム鞣しは、塩基性硫酸クロムという化学薬品を鞣剤に使う方法だ。1800年代後半のドイツで実用化された、比較的新しい技術である。


タンニン鞣しが数ヶ月かかるのに対し、クロム鞣しはわずか1日から数日で完了する。この圧倒的な生産効率により、クロム鞣しは急速に普及し、現在流通している革の大半を占めるまでになった。鞣した直後の革は「ウェットブルー」と呼ばれる青みがかった色をしている。


クロム鞣しの革は、柔らかく、軽く、発色が良い。耐熱性・耐水性にも優れ、扱いやすい。一方で、タンニン鞣しのような劇的な経年変化は起こりにくい。つまり「最初の状態が完成形」に近く、安定して使える実用的な革だ。靴、財布、ソファ、衣料など、あらゆる量産製品の土台となっている。


タンニン鞣しが「育てる革」なら、クロム鞣しは「すぐに使える革」と言える。どちらが優れているという話ではなく、目的が違う。



コンビ鞣し——両者を組み合わせる


タンニン鞣しの経年変化と、クロム鞣しの柔軟性・耐久性。この両方を得ようとするのがコンビ鞣し(コンビネーション鞣し)だ。


一般的には、まずクロム鞣しで革の芯を作り、その後にタンニンで再鞣しする。これによって、クロム鞣しのしなやかさと安定性を持ちながら、タンニン鞣しの風合いや経年変化も楽しめる、いいとこ取りの革になる。


このコンビ鞣しの代表例として広く知られているのが、アメリカ・ホーウィン社の「クロムエクセルレザー」だ。


クロムエクセルは、コンビ鞣しで鞣した革に、牛脂・蜜蝋・植物性脂・魚脂など4種類以上の油脂をブレンドした独自のオイルをたっぷりと浸透させて作られる。100年以上前に開発された製法を、今もほぼ同じ工程で守り続けているという。完成までには複雑な工程を経るとされ、その手間が独特の質感を生む。


油分を非常に多く含むため、しっとりと柔らかく、使ううちに革の内部でオイルが移動して、表面を押すと色が明るく変化する「プルアップ」という現象が見られる。また使い込むと表面が擦れて下地の茶色が現れる「茶芯」も、この革の魅力として愛好されている。


一方で、油分が多く表面がナチュラルな仕上げのため傷がつきやすく、雨や水に弱いという扱いの難しさもある。経年変化が早く、ヴィンテージのような風合いへ短期間で育つことから、革好きの間で根強い人気を持つ素材だ。


クロムエクセルは、コンビ鞣しという製法がどれだけ豊かな個性を生み出せるかを示す、ひとつの到達点と言えるだろう。



鞣しが、革の個性を決める


同じ動物の皮から、これだけ性格の異なる革が生まれる。


時間をかけて育てるタンニン鞣し。すぐに使える実用のクロム鞣し。両者を掛け合わせるコンビ鞣し。どれが正解ということはなく、それぞれが異なる目的と美学のもとに存在している。


革を選ぶということは、その背後にある鞣しの思想を選ぶことでもある。どんな時間の流れを、その革と過ごしたいか——そこに、革選びのほんとうの分岐点がある。


StrangeArtifactがタンニン鞣しを選んでいるのは、革が時間とともに育ち、使う人の物語を刻んでいく、その性質を何よりも大切にしているからだ。


◆【関連する記録】


ダークアカデミアとは何か【美学の起源・文学・ゴシックとの違い】(タンニン鞣しが生む経年変化が、なぜ美学として愛されるのか)



革で作られた遺物もまた、知を愛する者の傍らに置かれることを想定して作られている。架空の世界から届いた装身具だ。⇒StrangeArtifactのSHOP



StrangeArtifactでは、こうした歴史から生まれた遺物を、日々ひとつひとつかたちにしています。 新しい遺物や、世界観の断片は、Instagramで。




著者:ツダイサオ(Tsuda Isao) 革と金属で架空の遺物を再現するレザーアクセサリーブランド「StrangeArtifact」主宰。衣装・空間・3Dと領域を横断して世界観をかたちにするデザイナーであり、一般社団法人 日本スチームパンク協会の理事も務める。h.NAOTOやSheglitとのコラボレーション、各種メディアへの衣装提供など実績多数。






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