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タロットの歴史【遊戯から占いへ】

  • 8月4日
  • 読了時間: 4分
ろうそくの灯る黒い柄布の上にタロットカードが並び、THE SUNとACE OF PENTACLESが見える神秘的な雰囲気。

占いの道具では、なかった

タロットカードと聞けば、多くの人が神秘的な占いの道具を思い浮かべるだろう。古代エジプトの秘儀を伝える書物だ、という説を耳にしたことがある人もいるかもしれない。


しかし史実をたどると、まったく違う姿が見えてくる。タロットは元々、占いのために作られたものではなかった。それは15世紀のイタリアで生まれた、貴族たちのカードゲームだったのだ。



15世紀イタリア、宮廷のゲームとして

タロットの原型は、15世紀の北イタリアで生まれた「トリオンフィ」と呼ばれるカードゲームだとされている。現在の大アルカナにあたる22枚は、このゲームにおける切り札の一群だった。


当時のカードは手描きの豪華なもので、宮廷の富裕層のための贅沢品だった。中でも有名なのが、ミラノの名門ヴィスコンティ家とスフォルツァ家のために作られた「ヴィスコンティ=スフォルツァ版」で、金箔をふんだんに使った美しいカードとして、今も一部が現存している。


16世紀に入り、木版や銅版の印刷技術が発展すると、カードの大量生産が可能になった。これによってタロットは貴族の手を離れ、庶民へ、そしてヨーロッパ全土へと広まっていく。この時期に大量生産されたのが、後に標準的な図像として定着する「マルセイユ版」だ。当時のヨーロッパでは、船乗りたちの間でタロットを使った賭博が盛んになり、何度も禁止令が出されたという記録も残っている。神秘の道具どころか、賭け事の道具として扱われていた時代があったのだ。



18世紀、占いの道具になる

タロットが占いや神秘主義と結びついたのは、18世紀後半のことだ。当時ヨーロッパを席巻していたオカルトブームの中で、タロットカードに神秘的な意味を見出す動きが生まれた。


この転換を決定づけたのが、エッティラ(本名ジャン=バティスト・アリエット)という人物だ。彼は初めてタロット占い専用の解説書を著し、タロットを占術の体系として提示した。これによって、ゲームのカードは占いの道具へと生まれ変わることになる。


同じ時期、タロットの起源を古代エジプトに求める説も広まった。しかしこれは史実ではなく、18世紀以降の再解釈だと考えられている。ゲームとして生まれたカードに、神秘主義的な権威を与えるための物語として機能したのだ。タロットは「発見された古代の秘儀」ではなく、「後から神秘を与えられたゲーム」だった。



「アルカナ」という言葉の誕生

現在私たちが当たり前に使っている「大アルカナ」「小アルカナ」という用語も、実は比較的新しいものだ。


タロットを指して初めて「アルカナ」という言葉が使われたのは、1863年、ポール・クリスチャンという人物の著作においてだとされる。さらに1889年、パピュス(本名ジェラルド・アンコース)がタロットとカバラの解説書を刊行し、そこで「大アルカナ」「小アルカナ」という区分が用いられた。


つまり、タロットの用語体系そのものが、19世紀のオカルティズムの中で整えられていったものなのだ。



ウェイト版という到達点

現在もっとも広く使われているタロットが「ライダー=ウェイト=スミス版」、通称ウェイト版だ。1909年に発表されたこのデッキは、魔術結社「黄金の夜明け団」に属していたアーサー・エドワード・ウェイトの解釈に基づき、パメラ・コールマン・スミスが図像を描いた。


ウェイト版の大きな革新は、それまで単純な記号の並びでしかなかった小アルカナに、具体的な場面を描く絵柄を与えたことだ。これによってカードの意味が直感的に読み取れるようになり、タロット占いは飛躍的に普及していった。


興味深いのは、ウェイト自身がこのデッキを「占いのため」ではなく「神との合一を目指して」制作したと語っている点だ。単に未来を当てるための道具ではなく、自己の内面と向き合い、魂の成長を考えるための道具として構想されていたのだ。



物語が、後から宿る

15世紀の宮廷ゲームとして生まれ、賭博の道具となり、18世紀に神秘の書として再発見され、19世紀に体系化される。タロットの歩みは、ひとつの物が、いかに後から意味を与えられていくかを示す、鮮やかな実例だ。


もの自体は変わらなくても、そこに込められる物語は、時代とともに移り変わっていく。そしていつしか、後から与えられた物語のほうが、本来の姿よりも真実らしく響くようになる。


◆【関連する記録】


(タロットと同じく、19世紀のオカルティズムの中で再解釈された思想)


(図像に意味を託すという、タロットとも通じる象徴の歴史)



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ストレンジアーティファクト主宰ツダイサオの近影写真、シルクハットをかぶりメガネをかけている。

著者:ツダイサオ(Tsuda Isao) 革で架空の遺物を再現するレザーアクセサリーブランド「StrangeArtifact」主宰。衣装・空間・3Dと領域を横断して世界観をかたちにするデザイナーであり、一般社団法人 日本スチームパンク協会の理事も務める。h.NAOTOやSheglitとのコラボレーション、各種メディアへの衣装提供など実績多数。





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