金色という色【黒と組み合わせると何が起きるか】

黒い革に金色の金具。この組み合わせも定番の一つで、とくに華やかさを求める場面ではよく選ばれる。
ただし、黒と銀色の組み合わせとは性質がかなり違う。見た目の印象が違うという話ではなく、組み合わせの構造そのものが別物である。そして素材によっては、時間が経つほど当初の意図から離れていく場合もある。
ここでは、視覚、場面、時間という三つの層から見ていく。
素材としての金
まず基本を押さえておきたい。
金の純度は24分率で表される。K24が純金で、純度99.9パーセント以上。千分率で999と表記されることもあり、こちらは国際的に通用する表記法である。K18なら75パーセントが金で、残りの25パーセントが割金と呼ばれる別の金属になる。
割金には銀や銅が使われることが多い。イエローゴールドの場合、銀と銅の比率は50対50から60対40程度が一般的とされる。銅の割合を増やすとピンクゴールドになり、パラジウムなどを混ぜるとホワイトゴールドになる。
ここで、変色について正確に押さえておく必要がある。金そのものは酸化しにくく、K24は変色しにくい。しかしK18の場合、割金として含まれる銀が硫化し、銅が酸化することで、変色する場合がある。
つまり「金は変わらない」というのは、厳密には純度の高いものに当てはまる話だ。純度が下がるほど、割金由来の変化が出やすくなる。
真鍮は金ではない
金色に見える金属は、金だけではない。装身具や金具で広く使われているのが真鍮である。
真鍮は銅と亜鉛の合金で、金は含まれていない。新しいうちは明るい金色をしているが、空気中で酸化や硫化が進み、次第に色が沈んでいく。使い込まれた真鍮が茶色や褐色を帯びるのは、この変化による。
問題は、色見本を並べただけでは、この違いが分からないことだ。新品の真鍮と金は、同じ「金色」として認識される。違いが出るのは時間が経ってからで、つまり買う時点では判断できない。
そして、この違いが組み合わせの成否を分ける。あとで詳しく触れる。
視覚の層【主従が決まる】
まず色そのものの話から。
金色は、黄色という色相を持っている。ここが銀色との決定的な違いだ。銀色は金属光沢を持つ無彩色で、色相がない。だから黒と並べても、どちらが主とも従とも決まらない。
金色は色相を持つため、黒と組み合わせると必ず金が前に出る。黒は背景になる。主従が構造として固定されるのだ。
これは優劣の話ではない。金を主役として見せたいなら、黒はこれ以上ない背景になる。無彩色で、色相を持たず、金の輝きを最も明確に見せる。実際、金を用いた装身具の多くが黒い台座や黒い革と合わせられているのは、この効果によるところが大きい。
ただし、金具を装いに馴染ませたい場合には、この性質が逆に働く。金具が常に主張してくるからだ。
場面の層【ハレとケ】
前回、銀色について書いたとき、ハレとケという枠組みに触れた。
民俗学において、ハレは祭礼や儀礼といった非日常を、ケは繰り返される日常を指す。そして金と銀は、この枠組みの中で非対称な位置にある。
金は明確にハレに属する。祝いの場では強く求められるが、日常に持ち込むと浮く。一方の銀は、ハレでもケでも成立する。祝儀の水引に金銀が使われる一方で、日用の器や道具にも銀色は普通に用いられてきた。
黒も、ハレとケの両方に置ける色である。喪という非日常に結びついてきた一方で、洋装の普及以降は日常着の色にもなった。
したがって、黒と金の組み合わせは、片方だけがハレ側に強く引くことになる。日常的に身につけるものとしては、この非対称が扱いにくさとして表れる場合がある。逆に、ハレの場で使うのであれば、これ以上ない組み合わせでもある。
時間の層【揃っているかどうか】
そして三つ目、時間の話になる。ここが最も見落とされやすい。
組み合わせを考えるとき、革と金具それぞれが時間とともにどう変わるかを、揃えて考える必要がある。片方だけが変わると、当初の関係が崩れていくからだ。
基本的に、現代の芯通しの黒革は退色しない。表面だけでなく中まで染まっており、擦れても下から別の色が出てこない。使い込んでも、黒は黒のままである。
この革に、純度の高い金の金具を合わせた場合、両方とも変わらない。作られた時点の関係が、そのまま保たれる。
一方、同じ芯通しの黒革に真鍮の金具を合わせると、事情が変わる。真鍮は酸化して色が沈んでいくが、革は変わらない。金具だけが暗くなり、当初の明るい金色と黒の対比は、時間とともに失われていく。
つまり、真鍮が黒革と相性が悪いと言われることがあるとすれば、それは金色だからではない。片方だけが変わるからである。
逆に、茶芯の革や退色する黒革であれば、真鍮との相性は良い。革も色を変え、金具も色を沈めていく。両方が同じ方向に進むので、関係が崩れない。むしろ、時間が経つほど馴染んでいく。
黒と一口に言っても、芯通しなのか、茶芯なのか、退色するものなのかで、合わせるべき金具は変わってくる。ここは色ではなく、変化の有無で判断する必要がある。
凍結という捉え方
ここからは私見になる。定説として語られている整理ではない。
変わらないもの同士を組み合わせると、その関係は保存される。ただしこれは「永続」とは少し違うように思う。
永続は、時間が流れ続ける中で変わらないことを指す。それに対して、変わらないもの同士の組み合わせで起きているのは、時間そのものが止まっているような状態だ。作られた一点が保存され、周囲がどれだけ進んでも動かない。凍結と呼ぶほうが近い。
そして凍結されたものは、周囲の時間から切り離されている。日常が進んでいく中で、そこだけが別の時間に属している。だから日常の中では浮く。
これは欠点ではない。ハレの場面で使うのであれば、周囲から浮くことにこそ意味がある。祝いの席で日常に馴染んでしまう装身具は、役割を果たしていないことになる。
対して、黒と銀色や、茶芯と真鍮といった組み合わせは、時間に対して開いている。周囲と一緒に進んでいく。日常的に身につけるものとして扱いやすいのは、こちらのほうだ。
狙いが違うということ
三つの層を通して見ると、黒と金の組み合わせは一貫している。
視覚では主従が固定され、場面ではハレに引き、時間では凍結する。どれも、その組み合わせを特別なものとして際立たせる方向に働いている。
だから、黒と銀色の組み合わせと比べて優れているとも劣っているとも言えない。狙いが違う。日常に馴染ませたいなら銀色が向いているし、特別なものとして見せたいなら金が向いている。
ただし、真鍮を使う場合だけは注意が要る。真鍮は金色でありながら変化する金属で、時間に対して開いている。金と同じつもりで合わせると、想定と違う結果になることがある。
色見本では判断できない。何と組み合わせるかを決めるとき、その素材が時間とともにどう変わるかまで含めて見る必要がある。
◆【関連する記録】
(無彩色同士の組み合わせと、ハレとケの枠組みについて)
(黒い革がどう変化するのか、その機序の違いについて)
(黒という色が意味を変えてきた歴史について)
StrangeArtifactでは、こうした歴史や意匠をもとに、革製品をひとつひとつ手作りしています。 商品はこちらからご覧いただけます。
新作や制作の様子は、Instagramでも発信しています。よろしければご覧ください。

著者:ツダイサオ(Tsuda Isao) 革で架空の遺物を再現するレザーアクセサリーブランド「StrangeArtifact」主宰。衣装・空間・3Dと領域を横断して世界観をかたちにするデザイナーであり、一般社団法人 日本スチームパンク協会の理事も務める。h.NAOTOやSheglitとのコラボレーション、各種メディアへの衣装提供など実績多数。


