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銀色という色【なぜ“黒と合う”のか】

8月27日
読了時間: 7分
黒い背景に、波形のように曲がった銀色のブレスレットが光を反射しているクローズアップ。

黒い革に、銀色の金具。この組み合わせは、レザーアクセサリーでは定番と言っていい。ほとんど疑問を持たれずに選ばれている。


しかし、なぜ合うのかを説明した文章はあまり見かけない。しかも銀色という言葉は、素材としての銀を指す場合と、単に色を指す場合が混ざって使われている。


ここでは両方を分けて整理する。前半で素材としての銀を、後半で色としての銀色を扱う。



素材としての銀【925と950】

シルバー925やシルバー950という表記は、銀の純度を千分率で示したものだ。925なら銀を92.5パーセント、950なら95.0パーセント含むという意味になる。


純銀は999と表記され、純度99.9パーセント以上を指す。ただし、そのままではアクセサリーに向かない。柔らかすぎて変形しやすく、長く使うには耐久性が足りない。そこで銅などの金属を割金として混ぜ、硬さを出す。金やプラチナと同じ考え方である。


950は銀の含有量が多いぶん柔らかく、彫金など繊細な加工に適している。一方で傷や変形が起こりやすく、耐久性は925よりやや低い。用途によって選び分けられている。


なお、スターリングシルバーとシルバー925は、ほぼ同じものと考えて差し支えない。厳密に言えば、スターリングシルバーは割金に銅のみを使ったものを指し、シルバー925は銅以外にニッケルやアルミニウム、錫などの使用も認められている。金属アレルギーの観点では、この割金の違いが意味を持つ場合がある。銀そのものは比較的アレルギーを起こしにくい金属とされるが、割金に含まれる別の金属が原因になることが多いためだ。


スターリングという呼び名の由来も面白い。12世紀ごろ、ドイツ東部のある組合がイギリスから牛を買う際、イースターリング(Easterling)と呼ばれる銀貨で支払っていた。この銀貨がイギリスで広まるうちに略されてスターリングとなり、1300年代にイギリスの法定品位となった。以後1920年まで、イギリスの銀貨はこの品位で鋳造されている。通貨単位のポンド・スターリングも、ここから来ている。



黒ずみは錆ではない

銀製品が黒ずむ現象は、しばしば酸化と説明される。しかし正確には、主な原因は硫化である。


空気中や汗に含まれる微量の硫黄分と銀が反応し、表面に硫化銀の膜ができる。鉄の錆のように素材そのものが崩れていくわけではなく、表面に薄い膜が生じているだけだ。だから磨けば元に戻る。


この違いは、扱い方に直結する。鉄の錆は進行するので放置できないが、銀の黒ずみは急ぐ必要がない。むしろ、この黒ずみを意図的に残す「いぶし銀」という仕上げが古くからある。全体を黒くしてから、凸部だけを磨き出す。凹んだ部分に黒が残り、彫りが立体的に見える。


黒ずみを欠点ではなく表現として使う発想が、銀にはもともとあったということだ。



銀色は、銀とは限らない

ここから色の話に移る。


現代の生活で目にする銀色のほとんどは、実は銀ではない。ステンレス、アルミニウム、クロムメッキ、ニッケルメッキ、亜鉛合金。台所用品も、自動車の部品も、多くの装身具の金具も、銀色ではあるが銀ではない。


つまり銀色とは、特定の素材の色ではなく、金属光沢を持つ無彩色という状態を指している。何でできているかに関わらず、光を反射して白く輝けば銀色に見える。


これは金色と対照的だ。金色は黄色という色相を持つため、それを再現するには相応の工夫がいる。真鍮のように別の金属で近い色を出すこともできるが、時間の経過とともに違いが表れてくる。一方、銀色は色相を持たないため、素材が違っても見え方の差が小さい。


このブランドで使っている金具も、銀色ではあるが銀ではない。ニッケルメッキの美錠や、真鍮のカシメを用いている。色として銀色を選んでいるのであって、素材としての銀を選んでいるわけではない。



なぜ黒と合うのか

ここが本題である。


黒と銀色が合う理由は、どちらも無彩色だからだ。無彩色とは色相を持たない色のことで、白、灰色、黒、そして金属光沢の銀色がこれにあたる。


色相を持たないということは、他の色に干渉しないということでもある。赤と緑のように主張がぶつかることがない。黒と銀色は、明度で言えばほぼ両端に位置している。最も暗い色と、最も明るく光る色。対比は最大になるが、色相の衝突は起きない。だから強いコントラストでありながら、うるさくならない。


そして、主従が決まらない。銀色が主役にも背景にもなれるし、黒も同じである。どちらが引き立て役という関係にならない。


金色の場合は事情が違う。金は黄色という色相を持っているため、黒と組み合わせると必然的に黒が引き立て役になる。金が主役で、黒が背景。これは優劣の話ではなく、構造の話だ。狙う効果が違ってくる。


もうひとつ、革との相性で言えば、銀色は革の表情を邪魔しない。革は使い込むうちに色が深まり、艶が出る。そこに色相を持つ金具を合わせると、革の変化と金具の色が競合する。無彩色の金具であれば、革がどう変化してもその関係は崩れない。



日本人と銀色

作り手として販売してきた実感を言えば、日本では黒革に銀色の金具が最もよく選ばれる。


他の組み合わせを用意していても、結果として黒と銀色に落ち着くことが多い。理由を断定することはできないが、いくつか思い当たることはある。ひとつは、いぶし銀という言葉が肯定的に使われることだ。派手ではないが実力がある、という意味で使われる。輝きを抑えた金属の色に、価値を認める感覚が言葉として残っている。


刀装具の色調も関係しているかもしれない。鍔や縁頭に用いられた赤銅や四分一といった合金は、いずれも黒や灰色に近い落ち着いた色調で、金の使い方も控えめだった。華やかさより深さを取る美意識が、長く共有されてきた。


和装においても、金と銀では場面が分かれる。ここで手がかりになるのが、ハレとケという枠組みだ。


民俗学において、ハレは祭礼や儀礼、祝い事といった非日常を指し、ケは繰り返される日常を指す。日本の生活文化では、この二つが衣服や食事、道具の使い分けとして表れてきた。晴れ着という言葉が今も残っているとおりである。


金と銀は、この枠組みの中で非対称な位置にある。金は明確にハレに属する色だ。祝いの場では強く求められるが、日常に持ち込むと浮く。一方の銀は、ハレの場でも成立し、日常でも成立する。祝儀の水引に金銀が使われる一方で、日用の器や道具にも銀色は普通に用いられてきた。金はハレにしか置けないが、銀は両方に置ける。


そして黒も、同じ性質を持っている。日本では長く喪という非日常に強く結びついてきた色だが、洋装の普及以降は日常着の色にもなった。今では礼装から普段着まで、どちらでも使える。


黒と銀色の組み合わせが日常的に身につけるものに向いているのは、おそらくここに理由がある。どちらもハレとケの両方に置ける色だからだ。金と黒の組み合わせだと、金がハレの側に強く引くため、日常から浮きやすくなる。



色を持たないという選択

黒は最も暗い無彩色で、銀色は最も明るく光る無彩色である。両端にありながら、どちらも色相を持たない。


前に書いた黒の記事で、黒が長く使われ続けている理由は無彩色であることに行き着くと述べた。銀色も同じ場所に立っている。何も主張しないから、何とでも組み合わせられる。


黒と銀色の組み合わせが定番であり続けているのは、流行として選ばれたからではなく、色として衝突する要素がないからだろう。理由がなくならない限り、この組み合わせも古くならない。



◆【関連する記録】


(もう一方の無彩色が、意味を変えてきた歴史について)


(割金の違いが、どのように影響するかについて)


(金属と石の組み合わせが持ってきた意味について)



StrangeArtifactでは、こうした歴史や意匠をもとに、革製品をひとつひとつ手作りしています。 商品はこちらからご覧いただけます。




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ストレンジアーティファクト主宰ツダイサオの近影写真、シルクハットをかぶりメガネをかけている。

著者:ツダイサオ(Tsuda Isao) 革で架空の遺物を再現するレザーアクセサリーブランド「StrangeArtifact」主宰。衣装・空間・3Dと領域を横断して世界観をかたちにするデザイナーであり、一般社団法人 日本スチームパンク協会の理事も務める。h.NAOTOやSheglitとのコラボレーション、各種メディアへの衣装提供など実績多数。





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