A Perfect Circleの美学【プログレッシブとダークの間】
- 8月9日
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同じ声、異なる器
A Perfect Circle(ア・パーフェクト・サークル)は、1999年に結成されたアメリカのロックバンドだ。中心にいるのは、ギタリストで作曲家のビリー・ハワーデルと、TOOLのボーカリストであるメイナード・ジェームス・キーナン。
同じ人物が二つのバンドで歌っている。ならばA Perfect Circleは「TOOLの別働隊」なのか。デビュー当時、そう見なされることも多かったという。しかし実際に音を聴けば、この二つがまったく異なる場所を目指していることがわかる。
ここでは、TOOLとの対比を通じて、A Perfect Circleが持つ独自の美学を見ていく。
ギターテクから、ソングライターへ
このバンドの誕生には、興味深い経緯がある。
ビリー・ハワーデルは元々、TOOLをはじめ、ナイン・インチ・ネイルズ、スマッシング・パンプキンズ、デヴィッド・ボウイといった錚々たるアーティストのもとでギターテクニシャンを務めていた人物だ。裏方として数々の現場を支えていた彼が、自ら書き溜めていた楽曲をメイナードに聴かせたことが、A Perfect Circle結成のきっかけになった。
2000年、デビューアルバム『Mer de Noms』が発表される。TOOLが所属レーベルとの法的紛争で思うように活動できなかった時期と重なり、このアルバムは大きな注目を集めた。
TOOLとの、決定的な違い
A Perfect Circleの音楽性は、TOOLとしばしば比較される。だがその違いは明確だ。
TOOLの楽曲は、長尺で、変拍子とポリリズムを多用し、聴き手に思考を強いるような複雑さを持っている。(TOOLの数学的構造については「TOOLの世界観と神聖幾何学」で扱っている。)フィボナッチ数列を歌詞に組み込むような、知的で構築的なアプローチがその核にある。
対してA Perfect Circleの楽曲は、コンパクトだ。多くが3分から4分台に収まり、5分を超える曲はほとんどない。メロディはより普遍的で、幅広い層に届く親しみやすさを持っている。
歌唱も対照的だ。TOOLではあえて無機質に歌うことも多いメイナードが、A Perfect Circleでは感情豊かに歌い上げる。同じ声でありながら、まったく異なる表情を見せるのだ。
ダークであることに変わりはない。だがTOOLが「聴き手を拒絶するかのような」深淵へ向かうのに対し、A Perfect Circleは、柔らかな光の中を浮遊するような、不思議な安らぎを持っている。
ゴシックという色合い
A Perfect Circleの音楽を特徴づけるもうひとつの要素が、そのゴシック的な色合いだ。
メイナードがこのバンドで見せるメロディは、ヘヴィロックのそれというより、むしろゴシック調の響きを強く帯びている。デペッシュ・モードのような、ゴシック/ニューウェイヴ系のバンドに近い色合いを見出す評もある。(ゴシックロックの系譜については「ゴシックとは何か」で扱っている。)
より官能的で、より人間の弱さに近い場所へ沈んでいく。ハワーデルが作る重く陰影のある楽曲に、メイナードの声が触れることで、音楽は単なるヘヴィロックを超えて、祈りと毒が入り混じったようなドラマになる。
同じくゴシック調のヘヴィロックとして語られるEvanescenceとも、また異なる何かをA Perfect Circleは持っている。(Evanescenceについては「Evanescenceの世界観」で扱っている。)その違いは、ハワーデルというソングライターの資質と、メイナードの声、そして参加する優れたミュージシャンたちの化学反応から生まれたものだろう。
二つの器を、使い分けるということ
ひとりの表現者が、二つのまったく異なるバンドを並行して持つ。この事実は、表現というものの性質について、示唆的なことを教えてくれる。
知的で構築的なものを注ぐ器としてのTOOL。感情的で官能的なものを注ぐ器としてのA Perfect Circle。同じ人物の中にある、異なる衝動が、それぞれ別の形を見つけたのだ。
ひとつの器にすべてを詰め込もうとすれば、どちらも中途半端になる。器を分けることで、それぞれの純度が保たれる。これは音楽に限らず、あらゆる表現に通じる話かもしれない。
同じ言葉が、反転する
この「器を変える」という発想を、もっとも鮮やかに示した例が、2004年のアルバム『eMOTIVe』に収録されたジョン・レノンの「Imagine」のカバーだろう。
原曲は、穏やかなピアノに乗せて、国境も所有もない世界を夢想する、希望に満ちた楽曲として広く知られている。A Perfect Circleは、この曲の歌詞を一言も変えていない。変えたのは、それを注ぐ器だけだ。
重く沈み込むアレンジの中で歌われるとき、同じ言葉がまったく別の意味を帯び始める。理想を語る歌が、その理想がいかに遠いかを突きつける歌に反転する。夢を見る歌が、夢を見ることしかできない現実を照らす歌になる。
言葉は同じでも、それを支える音が変われば、届く世界は反転する。A Perfect Circleというバンドが何をしてきたのかを、この一曲は端的に示している。
なお、このカバーのミュージックビデオはかなり強い表現を含むため、ここでは掲載しない。興味のある方は、ご自身で探してみてほしい。
◆【関連する記録】
(同じメイナード・ジェームス・キーナンが率いる、対照的なもうひとつのバンド)
(同じくゴシック調のヘヴィロックとして語られるバンド)
(A Perfect Circleの音楽が帯びる、ゴシックという色合いの源流)
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著者:ツダイサオ(Tsuda Isao) 革で架空の遺物を再現するレザーアクセサリーブランド「StrangeArtifact」主宰。衣装・空間・3Dと領域を横断して世界観をかたちにするデザイナーであり、一般社団法人 日本スチームパンク協会の理事も務める。h.NAOTOやSheglitとのコラボレーション、各種メディアへの衣装提供など実績多数。


